どろぼう と じやん

他人のものを盗むってどんな気持ちがする?

生涯その指の感覚を忘れずに生きていくのはどんな感じがするの?

バイクを盗む

人の財布から金を抜く

拾った財布をネコババする


バイト先の店のレジから札を一枚だけ失敬する


店頭に並んだ口紅をそっと自分のバッグに入れる


寝たきりの年寄りが持っていたお見舞いを盗る


それはあなたの心を破壊するよ


あたしはあなたを心配などしていないが


駄目になっていく人間の 駄目になっていくザマが気持ち悪い


いいザマとも思わない
暗い気持ちだ


泣けてしまう



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何年か昔
一万円を拾って 居酒屋で見せびらかして

その後すぐに交番に届けに行ったじいさんがいた


交番に届けた事は言い触らさないので

彼があの一万円で飲んでしまったと思ってる人もいただろう


彼には計算する事ができなくて


一万円と言う大金を拾った事が自慢で嬉しくてみんなに見せて話した


そしてそれを正直に返す事は特別美徳とも思ってなかった


ただ当たり前に返して
周囲からどう思われたかは無頓着だった



今彼は

寝たきりになって うちの病院に入院している


いわゆる どの看護師もが言う「愛おしげなじやん」になった


愛らしい可愛いおじいちゃん と言う意味



何をやっても「ありがとう」と「はい」と返事をして


四六時中ニコニコして 四六時中時々歌をうたっている


窓の外にいる鳥を
神々しく芯から嬉しそうに眺める



彼が病院の人気者になって 天寿をまっとうする事となるとは



彼は余命は持って半年


痛がりもせず
何一つ不満も言わず

なんなんだろう


生涯に憤慨
怒り
恨み

そういうものが欠落していた人間の



人の生き様というより


タンポポみたいな人生