ユーパスタ

まさかまた褥瘡に関わり
苦しむ羽目になるとは思わなかった

病院にいた頃はここまで苦しい思いをした事はない

真皮むき出しの皮膚にユーパスタを塗れという指示に従えと言われた
それが仕事だと

説明したが 聴く耳もない


看護係長は 指示に従うのが仕事だと言い切り
医師に逆らう資格はないという


私は知識をひけらかしたのではない
何年も臨床から離れて自分の知識も技術も疑っているくらいだ

でもやってはいけない
苦しませることと分かっている事はやりたくない

褥瘡については 佐渡に来る前からかなりの時間をかけて勉強してきたつもりだ
脳外にいた頃 外減圧の為に頭蓋骨を外した頭に褥瘡が出来て
N先生から

この皮膚の下になにがあると思ってんだ!脳だぞ!と怒鳴られたことがある

看護師がいくら頑張っても
全身状態が悪く 栄養状態も最悪な患者に褥瘡は簡単に出来てしまう

一旦できれば 看護師の仕事は膨大に増える 処置にかかる時間は相当で書類関係やらも増える
病院は褥瘡委員会が設置されていて経過を詳細に記録し
月に一度は親病院である総合病院まで行って会議で報告するのだ


患者は苦しみ 家族も悲しい思いをして金もかかる

皮膚が腐るなんて辛いじゃないか 痛いじゃないか

だから私は必死に勉強した

私は何か一つの説を崇拝するなんてことはしなかったが

湿潤療法には傾倒し 夏井医師の本やネットのサイトは読みまくった

なんでもかんでもワセリンでいいという記事には それはいくらなんでもどうなんだ?と疑問に思ったが あらかた夏井医師のやり方は間違っていないと思った

実際何しろ 面白いように完治する褥瘡が多かった

私がユーパスタを使ったのは

完全に壊死して悪臭を放つものだけだった

今思えばあれは褥瘡じゃない

壊死した足そのもの

切断するには高齢過ぎて手術対象じゃなかった

だから治せない諦めるしかない

乾燥させるしかない

私と一緒に褥瘡を治そうって事にオタク的に頑張っていた同僚から
彼女とはずいぶん言い争いにもなったが

彼女から これは乾燥させるしかない 諦めろと言われて認めるしかなかった



褥瘡は病棟でつくることも激減したが 自宅や施設でできた褥瘡をなんとかしてくれと言う患者が増え
金にならない患者ばかりだと医師から嫌味を言われた事もあるが
まー確かにそうだから仕方ない

それが今はどうだ

真皮がむき出しの皮膚にユーパスタを塗れと言われて


私はやった

結局


屈辱なのか?

プライドなのか?

なんなんだこの苦しみは


誰にこんなことを話せる?

誰も聞いちゃくれない

孤独だなー、、


わかった


罪悪感だ

孤独より
屈辱より

罪悪感だ