ずっとずっと幼かった頃にあたしのアィデンテティーは「お姉ちゃん」として確立された。

幼いながら何をするにも弟のことを先に考えて
彼の安全と幸せを優先していた。

弟に隠れてお菓子を食べるなんて考えもしないし
ケーキを切り分けるなら必ず弟に大きいほうを選らばせ
「もっと食べたい」と弟がいうなら
「お姉ちゃんのをあげるよ」とニッコリ差し出すようなあたしだった。

あたしは玩具をねだったこともない。
弟が怪獣やウルトラマンの玩具で遊んでいるのを見ているだけで良かった。

テレビのチャンネルで争ったこともない。
弟が観たいものを観れば良い。


誰かに殴られたと聞いたら
「おねえちゃんがやっつけてやる。どこの誰だか言ってみい?」と息巻いたこともある。

母からの電話はこんな言葉だった。


「Kちゃんが死んじゃったよ。」



さっき転寝していたときに彼が現れた。

学ランを着て坊主頭の高校生姿で。

日焼けした顔でうちの犬をなでていた。

あんなに大切にしたのにあたしより先に死んじゃうなんてひどい。


お姉ちゃんは今はもうお姉ちゃんじゃなくて、居酒屋のママでだんなさんの奥さんで
誰かの親友で生きてるよ。