大関松三郎

偉大な人だろうが(たとえば沢村投手のような)
偉大じゃなかろうが(たとえば大関松三郎)
男だろうが女だろうが
年寄りだろうが子どはもだろうが
平等に命を奪うのが戦争か?

新新潟に住んで今日知った大関松三郎

あなたは19才でどこで死んだのだ?

悲しいよあたしは

【ぼくらの村】

ぼくはトラクターにのる スイッチをいれる
エンジンが動き出す  ぼくの体がブルルンブルルンゆすれて
ラクターの後から 土が波のようにうねりだす
ずっとむこうまで  むこうの葡萄園のきわまで まっすぐ
四すじか五すじのうねをたがやして進んでいく
あちらの方からもトラクターが動いてくる
のんきな はなうたがきこえる
「おーい」とよべば 「おーい」とこだまのようなこえがかえってくる
野原は 雲雀のこえとエンジンの音
春のあったかい土が つぎつぎとめくりかえされて 水っぽい新しい地面ができる
たがやされたところは くっきりくぎられて
そのあとから肥料がまかれる 種がまかれる
広い耕地がわずかな人とわずかな汗で
いつもきれいに ゆたかにみのっていく
葡萄園東側にずっと並んでいるのは家畜小屋
にわとりやあひるや豚や兎や 山羊やめんようがにぎやかにさわぎまわり
そこからつづいている菜種畑や れんげの田には
いっちんち 蜜ばちがうなりつづけている
食用蛙や鯉やどじょうのかってある池が たんざく形に空をうつしながら
菜種畑の黄色とれんげ田の紅色の中に 鏡のようにはまりこんでいる
ずっとむこうの川の土手には 乳をしぼる牛や 肉をとる牛があそんでいる
こんなものの世話をしているのは としよりや女の人たち
北がわに大きなコンクリートの煙突をもっているのは 村の工場
半分では肥料を作っているし 半分では農産物でいろんなものを作っている
あそこから今でてきたのは組合のトラックだ
きっと バターや肉や野菜のかんづめや
なわやむしろやかますや靴なんかをのせているだろう
村で出来たものは遠い町までうられていく
そして南の国や北の国のめずらしいものが 果物でも機械でもおもちゃでも本でも
村の人たちののぞみだけ買ってこられる
組合の店にいってみよ 世界中の品物がびっくりするほどどっさり売っているから
あ、今 工場の右の門から蜜ばちのようにあちこちとびだしたオートバイは
方々の農場へ肥料を配達するのだ
いい肥料をうんと使って うんと肥えた作物を作らねばならない
あちらこちらから 静かにくる白い自動車は 病人をのせてあるく病院の自動車だ
「よう恒夫か、足はどうだい」 「もうもとどおりにはなおらんそうだ それでこんどは
 学校へはいってな 家畜研究をやっていくことになったんだ」
「おおそうか しっかりやってくれ さようなら」
自動車はいく ぼくはトラクターを動かす
病人はだれでも無料で病院でなおしてもらう
そして体にあう仕事をきめてもらうのだ
だれでも働く みんながたのしく働く 自分にかのう(かなう)仕事をして
村のために働いている 村のために働くことが自分の生活をしあわせにするのだ
みんなが働くので こんなたのしい村になるのだ
村の仕事は 規則正しい計画にしたがって 一日が時計のようにめぐっていく
一年も時計のようにめぐっていく
もう少しで 村のまんなかにある事務所から 交代の鐘がなってくるだろう
そうしたら ぼくは仕事着をぬぎすて 風呂にとびこんで 体をきれいにする
ひるからは 自分のすきなことができるのだ
絵でもかこうか 本でもよもうか
オートバイにのって 映画でもみにいこうか 今日は研究所にいくことにしよう
こないだからやっている 稲の工場栽培は
太陽燈の加減の研究が成功すれば 二ヶ月で稲の栽培ができる
一年に六回 工場の中で 五段式の棚栽培で 米ができるのだ
今に みんなをびっくりさせてやるぞ 世界中の人を しあわせにしてやるぞ
中共同で仕事をするから 財産はみんな村のもの
貧乏のうちなんか どこにもいない
子供の乳がなくて心配している人なんかもない
みんなが仲よく助け合い 親切で にこにこして うたをうたっている
みんながかしこくなるよう うんと勉強させてやる
学校は 村じゅうで一ばんたのしいところだ
運動場も 図書館も 劇場もある  ここでみんなが かしこくなっていく
これがぼくらの村なんだ こういう村はないものだろうか
こういう村は作れないものだろうか いや作れるのだ 作ろうじゃないか
君とぼくとで 作ろうじゃないか 君たちとぼくたちとで作っていこう
きっと できるにきまっている
一度にできなくても 一足一足 進んでいこう
だれだって こんな村はすきなんだろう
みんなが 仲よく手をとりあっていけばできる
みんながはたらくことにすればできる
広々と明るい春の農場を 君とぼくと トラクターでのりまわそうじゃないか