縛られた巨人

真夜中にバイクを翔ばして来た友人が

「読みましたよっ南方」と言った

「NHKのは あれは浅い」

そう そうなんである

よくわかってくれた!

それがあたしが思うとこだ

それは先日あたしがこのブログにアップしてるYouTubeの動画の事なんだが

NHKじゃなくても南方を語り尽くしても語り尽くせない


南方が歩いた距離
南方が見たものの数
南方が出会った者たち
南方が経験したものの豊富さは

広く広く深く深く 

どうやったって不可能に思える

想像するだけでも何年もかかりそうな膨大さなのだ



あたしが南方熊楠に想いをはせるのはそういう全てものでやはり語りつくせない


あの巨人
あの宇宙的な頭脳を彼は己の誉れのための武器にはしなかった



大地や海と共に
南方の生は地球的な規模で自由だったのだ


南方は裸だった


万物を己の裸の中に生きさせようと心を開ききっていた


山に
海に
空に向かって腕を開いて素っ裸かで向き合わずにはいられなかった

それでも 南方を縛ろうとしたものに
南方は裸のまま抗ったのだ


南方が裸足で歩いた苔むす緑の地面を引き剥がした者たちに

南方が走り抜けた森の樹々を切り倒した者たちに


何千年何億年という人知が及ばぬ域を犯した者たちに

南方は素っ裸かのまま抗い抜いた


南方は故人となり

彼の抗いの何が勝利でもないように思う

合祀の廃止が幾つかの森を守っても
地球は人間の手によって汚れ荒み
いずれは全てを滅ぼしつくす道を歩んでいるように思う


「読みましたよっ南方いいっすねっ」と

真夜中にバイクで来た友人の話しが あたしは本当に嬉しかったんだよ


和歌山にある記念館に
南方がメキシコから持ち帰ったデカいサボテンの押し花(?)がある

サボテンをそのまま押しつけつぶして なんとか日本に持ち帰った南方の

初めて見たサボテンに「すげーっなんだこりゃ!」と言う声が聞こえそうなものだった


あの記念館の屋上で

人間が全てを巻き添えにして地球を滅ぼしても

大丈夫だよ 地球は再生する

何十憶年かけてタンパクを合成し 何十憶かけて命をまた作るだろう

だから大丈夫だ

地球はガラスなんかじゃないのだよ


そう話してくれた人を思い出した


南方熊楠をあたしに教えてくれた人だった



あの分厚い堅苦しそうな「縛られた巨人」という著者を押しつけた友人は

真夜中バイクで翔ばしてやってきて


「読みましたよ〜いいっすね〜南方っ」とまるで軽口を叩くように喋るけれども

彼の軽口が彼の心髄を曇らせるものではない事を あたしは知ってる

それが嬉しいのだ