ぽにょ


いまさらポニョですか
はいそうです


昨年の夏ごろ
駄貸し屋の暖簾をくぐって
ヒゲのシブぃ男が 
シブぃ声で 
決まって口ずさんでいたのは


「ポーニョポーニョポニョ魚の子〜♪
 マスター・・焼酎〜・・」


崖の上のポニョが公開されてすぐに
宮崎は終わった
ジブリはもうダメだ
という酷評の嵐だった

 
宮崎監督は「こどものために創ったのだ」と・・


さて あたしはガキのころ
人魚姫を絵本で読んで以来 しばらく人魚姫を崇拝していた

人魚姫はたった一人の男のために 全てを投げ捨てて陸に上がる
家族も故郷も声も
魚の尾のかわりに与えられた足は 歩くたびにナイフで刺される痛みを伴う

男が他の女と結婚したので 人魚姫は最初の駆け引きの通り
海の泡となって死んでいくのだ

あのアンデルセンのマインドコントロールによって
ウルトラ警備隊の女性隊員になる夢を捨てて
あたしは人魚姫に傾倒していった(事実)

ポニョはどうだろう?

ポニョもソウスケ一人のために 何の迷いもなく陸へ上がる
「そうすけ大好き!」とポニョはソウスケの胸に飛び込んでいく


アンデルセンの人魚が ポニョみたいに
「あなたを好きなのよ!!」と言えたらきっと物語は違ったのに


アンデルセンが生きてたら
「ガキの読むものに なんてオチをつけるんだよ!」と
酔っ払って絡みまくるに違いない



「こどものために創ったんだよ」よいう宮崎監督の言葉を
酷評する人たちは聞いたのだろうか?


何を隠そう 酷評とまではいかないまでも
あたしも微妙ーーだねーと思ってた

でもって 好きなシーンはけっこうある
あたしが「崖の上のポニョ」で一番好きなシーンは

ソウスケの母親の夫が
急な仕事の都合で船から降りれなくなったときのシーン

彼女は夫の船に向かって
「バカバカバカバカ!!!!」とモールス信号を打つシーンだ
まるで機関銃をぶっぱなすように怒りを叩きつける

「BAKABAKABAKA!!!」

彼女の心が痛くて気恥ずかしい


  帰ってくるっていったのに
  会えると思って お夕飯作ったのに
  帰ってくるってゆったじゃないかーという


あの女の心理が情けなくて泣けるのだ
バカ女 あたしみたい・・


実際夫はあのシーンで
「美穂みてぇ・・」とつぶやいたので ぶっとばしたくなった


結局見終わって 総合的な評価を下した

「びっみょー」

わかったように口にした

ナウシカには程遠いね」


あたしは大人である
人魚姫を崇拝していた子どもではなくなってた
子どものころの夢などとっくに忘れて
金を稼いだり 嫉妬に狂ったり 国際ニュースだのにケチをつける
そういう大人になっちまってた





「こどものために創ったんだよ」

宮崎監督がいってた

あたしは監督の言葉をちゃんと聞いてなかったんだ

子どもが童話の絵本を開くように
ポニョを観るんだから
そのために創られたんだ


あたしにはもうわかんなくなっちゃたんだ


海水と水道水がどーのとか ガキがそんなことゴネるかよ





あたしの周囲で この映画に素直に感動しまくっていたのはたった二人

駄貸し屋の常連の あのシブぃヒゲのバイク馬鹿と
うちの職場(病院)にいる看護師の主任やってるやつ

彼女は今も「ぽにょぽにょ」とか鼻歌を歌いながら
平らな廊下でけつまづいて転んだりしている


一方 大人になったあたしは 
かわいこぶって貪欲に幸福を求めるシンデレラのほうが
人魚姫よりよっぽど素敵だと思うようになった

強くてたくましいシンデレラ



そんでも 心の底では やっぱり人魚姫を好き
ポニョのように幸福を求めてほしかったのよ