選挙

「○○に投票して」と職場で言われたよ

あたしは「やです」って言ったよ

「わかりました」といって違う人に投票するなんてできないよ

出来ない 

あたしは憲法9条が好きなのよ


あたしを育ててくれた人はたくさんいる


達磨屋の康男おじさんは あたしにいつもビー球をくれた

康男おじさんは いつも近所のT飯店で飲んだくれて

水道屋のSさんが親友で

ある日焼いてるホルモンがなくなって

水道屋Sさんが「オヤジ!ホルモン追加してくれ」って言ったら

店主のTマスターが「もう閉店だよ ホルモンはねえよ」と言ったら

Sさんがゴネゴネしてさ

康男おじさんが「てめえのモツを焼いたらどうだ」って言ったんだ

Sさんはズボン脱いでマジで自分のを網にのっけちゃって火傷したんだよ

それを康男おじさんがゲラゲラ笑って

そしたら水道屋SさんがTマスターの厨房から出刃包丁を持ち出して

康男おじさんのわき腹を刺しちゃったんだ



そんでK医院に駆け込んだ

康男おじさんはK先生に「警察に届けたらお前の医院をぶっ壊すぞ」って土下座しながら言うことじゃないけど土下座して そんでK先生に縫ってもらって・・・


そんで翌日また水道屋SさんとT飯店に飲みに行ったんだよ


あたしはいつも康男おじさんにビー球をもらった


両親とごちゃごちゃあったとき
作文で賞を貰ったとき
水泳で1位になったとき



その康男おじさんの背中はすごいケロイドがあった


康男おじさんが ある日突然死んで

水道屋Sさんが康男おじさんの棺におおいかぶさって蝉みたいにミンミン泣いてた時

康男おじさんの妻のおばさんに聞いた

「おじさんの背中の傷はね 戦争に反対してた赤って呼ばれた人たちをかくまったりしたから憲兵につかまって
 それで逆さづりにされて竹刀や木刀で殴られたからだよ」って教えてもらった



それで あたしはいろいろ考えるようになって

正義なんてのはよくわからないから自分の線引きをどこにするか決めた


赤ちゃんの死体が転がってるような戦争や紛争は拒否ることにしたってこと


だから憲法9条があると何もできないって考えにだけは賛同できない


なにもできないためにあるんだよ


投票はあたしが好きなやつにする


人にも強要しない